La Primaveraの謎解き

絵の舞台は、質朴な森。
木々には豊饒の実りのフルーツがたわわになっている。
謎解きは、画面右側からがお約束だ。

青色で描かれ宙に浮かぶゼフィロス(西風)が、女性をすくい上げようとしている。この世の生命を奪おうとする死の象徴である。 
女性は驚いて振り仰ぐ。その口から、新たな生命ともいうべき草のつるが、放たれ湧き出している。
生命のいぶきこそ、死の恐怖からの解放であるということだ。

生命をいぶかせるために、ではどうしたらいいのか。
いのち息吹く者へと自己を昇華させればよい。
こうしてすぐ脇の花柄服を着た女性へ自身を変化させることに成功する。艶やかにすっくと立ちながら、零れる微笑みを浮かべ、手にした籠からは、あたかも現世祝福のためでもあるかのような花びらを振りまいている。

文字どおり、じつに花のある女神への変身である。
だがしかし、それだけで佳いのか、すむのか。
いずれの死にはらまれた生命が、それだけで永遠の輝きをえることができるのか。

絵の中央に、知的で厳かな雰囲気の女性が静かに佇む。愛の女神アフロディーテである。彼女は、画面をみているわたしたちに、片手を掲げ画面の左半分を、好感を持って紹介している。これがヒントである。

絵の左側には3人の愛のニンフ(愛欲、純潔、愛情)が手を取り合って舞っている。
よく観ると、まんなかの女性は、踊りに興じているようにみえるが、しかし何かがとても気になるようだ。 
その視線の先には、ローマ風の衣服を着た男性(ヘルメス)。
画面上方にはキュービットが、矢をつがえ、その射線の先には、かのまんなかの女性(純潔のニンフ)。
ボッティチェリは、画面左半分で、戀の芽生えの瞬間を描いた。愛欲、愛情と純潔のなかで結実する愛しい人との出逢いと契り合い。戀の成就。そのとき生命のいぶきは永遠の輝きへと昇華する。死はその前でかすむから。だから戀せよ乙女。

『春』には、そんな戀愛讃歌がちりばめられている。天上的なのにじつにヒューマンな作品に仕上がっている。まさにルネサンスを象徴する。別世界にある他界天国を称揚した中世文化のむかしを止揚し、現実世界の不思議さ・尊さ・素晴らしさをたからかに謳うルネサンスの根本精神が息づく。

ラ・ヴィータ・エ・ベーラ(La vita è bella)。
この生命(生)こそが素晴らしい(美)。