第七展示室

花眼の宇宙





  四十代この先生きて何がある
  風に群れ咲くコスモスの花 

     (道浦母都子『花眼の記』)


 花眼(ホァイエン)は、中国語で「老眼」の意味。
 「群れ咲く花がぼんやり宙に浮かび上がる」
 からとも、
 「老いてすべてがほんのり美しく見えはじめる眼」
 だからともいわれている。

 細部にこだわらず、大所高所から成熟して
 闌けた(=中国語の「老」)心もちで、
 この世のことどもを、静かにやさしく
 洞見するまなざしと解釈したい。









 それはいわば他界からの視線。
 地上世界がどんな風に見えるだろう。
 芸術家はそんな「老」いた眼をもつ人々の群れ。





 ほの暗き房より出でて見る世界
 輝くまでに街照りていつ


 何が起こるかわからぬ不安とある期待
 交互に体を貫きゆけり


 異常が日常に溶け込む際の一瞬を
 青年の眼よ見逃すなかれ


 眠られぬ夜を明かして又想う
 苦しき今を今を生き抜け


 どこかさめて生きているようなやましさは
 われらの世代の悲しみなりき